母乳育児の沼

母乳育児はさまざまな流儀があって、お互いに他の流儀を批判しあっていたりして、最中にいる身としては混乱させられる。

WHO式
  • 児の知能・免疫・発育や母の健康など、さまざまな角度から母乳の利点を激しく強調される。
  • 産後直後から母子同室、母乳育児を開始。
  • 医学的な必要のある場合以外は6ヵ月までは母乳以外与えない。医学的な必要とは、授乳不可の薬剤を服用している(ちなみに多くの薬は授乳中も服用できる)、体重減少が著しいなど。
  • 授乳のタイミングは赤ちゃん主導。飲みたがっているときに我慢させたり、無理に起こして飲ませたりはしない。
  • 片胸を満足するまで吸わせる。
  • 母乳過多の場合はブロックフィーディングで対処。
  • 授乳中の特定の食事の制限はない。食事全体のバランスがよければいい。
桶谷式
  • 母乳が出ない場合、乳腺炎になる場合はマッサージが大切。
  • 母乳の新鮮さ(?)を保つため、3時間以上は授乳の間隔を空けないようにする。
  • 食事は和食が一番。脂質の多い食事をすると母乳の質が下がり、乳腺炎になりやすくなる。
  • 一回の授乳で必ず両胸から吸わせる。
産院の指導
  • 出産当日は赤ちゃんはナースステーション預かり。
  • 母乳の生成が足りなそうな場合は適宜ミルクで補完する。
  • 産後1日目、2日目は母乳が出ないためミルクを補充するが、ミルクの前に乳汁生成を促進するため両方とも吸わせる。母乳が出てきたら徐々にミルクを減らす。

 

など流派によって方式が違うので混乱するが、とりあえずはWHO方式に準拠し、それで不便があるときは適宜アレンジしている。

自分の感覚としては、食べたもので乳腺のコンディションが違うようには感じないし、搾乳した母乳を拒まれたことはないので桶谷式の食べ物や母乳の質に関するくだりは気にしないが、油っぽいものを食べると乳腺が詰まりやすいという体験がある人はままいるようである。母乳の分泌を促すためのマッサージはそれなりに効くのではないかと思っている。

WHOのガイドラインは理想的な環境を想定しており、リソースが足りない環境では無理があることもある。完全母乳+カンガルーケア実施中に赤ちゃんが死亡したり、低酸素に陥り重篤な障害が残った例もちょいちょいある。

窒息や低体温や低血糖を防ぐような環境調整や頻繁な医療従事者の見回りがあれば事故を避けることは可能だろうが、実際はそううまく行かないことが多いだろう。日本の産院は集約化が足りず、小規模な診療所が多いため、すぐキャパオーバーになりがちなので、十分な人手を前提とした運用は避けた方が安牌のように思う。

また、完全母乳育児は可能とは思うけれど、赤ちゃんが求める母乳量に母親の母乳産生能力がキャッチアップするには時間がかかるから、その間は赤ちゃんが不機嫌であったり、頻回授乳となったりするわけで、完全母乳で押し通すのも難儀ではある。

個人的にはなるべく早く母乳育児を確立させたいので授乳の回数は落とさないが、粉ミルクを使うときもある。

たとえば食事をしたいときに泣き出したときは粉ミルクで他の人に授乳してもらい、授乳回数が減る分は食事が終わったら搾乳して保存に回すなど。搾乳したものを冷凍保存はしているのだが、人に預けることを考えると粉ミルク+哺乳瓶にもある程度慣れておいた方がいいかもしれないので、ごくたまに粉ミルクもあげている。

結局はどの方式を採用したにしろ、授乳の時期が過ぎてしまえば大差ないのだろうと思っている。母乳育児の利点を主張する文献をたくさん読んでしまったし、安定さえすれば完全母乳は楽なものらしいのでとりあえずは頑張るが、無理はしすぎないことにする。