入院生活

入院生活があまりに忙しく、日単位での記憶がないため、まとめて書く。

まず当然ながら、一日最低8回の授乳というイベントがある。初産なので乳頭は結合組織が硬くて口に含みづらいし、授乳自体慣れてないし、そもそも最初は母乳ほとんど出ないし、赤ちゃん側も吸うのが下手だし、で毎回毎回時間がかかる。それにその都度何分吸わせたとか何mlミルクを飲ませたとか記録しなければならない。さらに自分と赤ちゃんの排尿排便回数を記録する必要がある。食事は見舞い客と一緒に食べるか、他の産婦と相席になるかで毎度時間がかかる。(相席は気まずいかと思ったけれど、出産や育児という共通の話題があるので場がもつし、勉強になる。)午後には毎日二回授乳指導があり、初産の場合は両方でる必要があり、その都度一時間弱かかる。さらに沐浴指導やら退院診察やらあると、なかなか自分の時間はとれない。

食事は朝はビュッフェ、昼は日本食・寿司・中華・イタリアン・フレンチなど。シェフは有名ホテルでの勤務経験がある人たちで、写真が食堂に貼られている。見舞いの客に最大で5回食事を無料でプレゼントすることもできる。基本的にすべておいしく、特にフレンチはとても凝っている。ビュッフェも日ごとにメニューを変えている。

母乳は産後1日目、2日目はわずかに黄色い透明な液体がにじみ出るだけであった。貴重な初乳であるので絞った分は無理矢理にでも飲ませた。一応おっぱいを吸わせはするが、ほとんど出ていないのはわかっているのでミルクを3時間ごとにあげていく。WHOは「新生児は水分をたくわえた状態で産まれてくるので、医学的に必要でなければ母乳が出なくてもミルクを補充する必要はない、ミルクを足せば母乳育児の妨げになる」と言っているのだが、粉ミルクをあげなくても凌げるというのと、粉ミルクをあげない方がよいというのはまた違う話だろう。空腹で泣き叫ぶのは赤ちゃん本人にとっても、親にとってもストレスで不安になるし、親はろくに寝ることができなくなるから、母乳育児成功のために耐え抜く覚悟がないと辛そうではある。

一方で、母乳とミルクの混合は栄養素的にいいとこどりができたり、預けたりするときに融通が利くというメリットはあるが、足りないのでは不安でミルクを足すことが習慣になると、どんどん分泌能が落ちてくるという問題もあるので難しいところではある。

3日目から乳房がパンパンに張ってじんじん痛み、表面がてらてらと光るようになった。授乳のことを考えたり、赤ちゃんの泣き声を聞くだけで乳汁がにじみ出てくるようになる。

直接授乳はうまく吸い付いてくれたり、手で押しのけられたりとなかなか安定しない。おっぱいを拒否されているというよりは、お腹が空くとパニックになって手をやたらめったらに動かしてしまい、吸うことにも集中できないようである。哺乳瓶を口に突っ込めば飲みはするのどが、その間も手をやたらに動かしている。単に吸啜反射で飲んでいるのではないかという気がする。

赤ちゃんは、起きているときはぼんやりと左右に目を向けているが、焦点が合っておらず白昼夢の中にいるような印象である。まだ地上の人間ではないという、神様感が強い。眠っているときの方が表情が多様で、笑ったり顔をしかめたりしている。

産後四日でタクシーにて退院。哺乳瓶や粉ミルクなど絶対に必要なものから、命名紙や抜けた乳歯を入れる箱など、全く要らないものも含めて、プレゼントを山程くれるし、西松屋も家からあまり遠くないので、ほとんど退院準備はいらない。オムツも70枚ぐらいもらったので急いで買う必要はない。あらかじめ買っておいたのは短肌着+長肌着2セットと沐浴用バスのみだったが、それで十分に間に合った。